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「評議員佐野明氏の文章が朝日新聞に掲載されました(2004.4.7 朝日新聞)」
朝日新聞朝刊2004年4月7日掲載

◇直言◇

防空壕跡にすむコウモリ守れ

三重県科学技術振興センター主幹研究員 佐野 明

 防空壕や地下軍需工場、軍用道路のトンネルなど、太平洋戦争当時の遺跡が各地に数多く残っている。だが、それらが洞穴性コウモリ類の貴重な生息場所になっていることはあまり知られていない。
 例えば、三重県でこれまでに確認されたコウモリ類のねぐら64カ所のうち12カ所が戦争遺跡だ。確認されたのは、キクガシラコウモリやモモジロコウモリなど5種。絶滅危惧種のテングコウモリも含まれる。遺跡で冬眠をし、出産や子育てをしているのだ。
 しかし、そうした遺跡の多くが老朽化に伴って取り壊され、開発のために破壊されている。
 保存はこれまで主に学校関係者や市民団体の手で取り組まれてきた。文化庁は95年以降、戦争遺跡の文化財指定を進めているが、登録されたのは約70件しかない。破壊から守る法的保護を受けていない遺跡がほとんどだ。
 さらに国土交通省や農林水産省は、防空壕跡など地下施設約5千カ所のうち777カ所について、陥没や崩落の危険があるとして埋め戻しを進めている。
 道路や家屋の陥没の危険があるならともかく、危険を避けるため子どもが入らないようにするなら、金網や柵を設けてコウモリは通過できるようにして欲しい。
 戦争遺跡は歴史教育や平和学習の優れた題材であり、見学会も開催される。ただ、公開の時期や方法などコウモリへの配慮をする必要もある。保存に取り組む人たちにも理解と協力を求めたい。
 戦争の愚かさや悲惨さを伝える「生き証人」とも言うべき戦争遺跡が、コウモリにとっても大切な場所であることを改めて知ってもらいたい。

(筆者)コウモリの会評議員。専門はコウモリ類の生態学、樹木医でもある。


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