コウモリの会ホームページ
朝日新聞朝刊2004年2月21日掲載

◇私の視点◇

コウモリ  偏見を捨てて共生を探ろう

 コウモリへのひどい偏見に満ちたテレビ番組を最近相次いで目にした。
 ある番組は、住宅問題の専門家だという人を招き、コウモリが家の中に入ることは社会通念上許される範囲を超えており、そのような家は欠陥住宅だ、との趣旨のコメントを流した。別の番組では、コウモリの生息する洞窟にスタッフらが入り、コウモリを捕獲していた。私にはそれは人間による「巣」への侵入行為に見えたが、番組は驚いたコウモリが舞い飛ぶシーンを流し、「異常繁殖コウモリが襲撃」という説明を付けていた。
 私たちコウモリの会(研究者や愛好家でつくる民間団体)はテレビ局に抗議し、質問書を提出した。ことはコウモリに限らず、野生動物の保護全体にかかわる問題だと考えたからだ。回答はまだ届いていない。
 熱帯地域ではコウモリが病気を媒介したケースが報告されてはいるものの、日本に住むコウモリがそのようなことをした例はない。コウモリが人を襲うこともない。コウモリは害獣ではないのである。また、日本ではコウモリの多くが森林を生活の場としている。伐採などで個体数は減少傾向にあると見られており、「異常繁殖」している種があるとは考えにくい。
 コウモリが人の家屋で生息する場合、その場所は通常、壁の中や天井だ。部屋の中に出てくるのはまれだろう。住み着いたと一部で苦情が出ているコウモリはアブラコウモリで、1.5センチほどのすき間があれば通り抜けてしまうため、完全密封の家を造らない限り侵入は防ぎにくい。高温多湿の日本にそんな構造は不向きであることを思えば、どの家にもコウモリが住み着く可能性があると考えるべきなのだ。
 それでもイヤだと思う方には、次のことを考えてほしい。多くの家には現在、ゴキブリやムカデ、ダニ、ネズミなどが住み着いている。少なくとも衛生面や安全面において、コウモリがこれらの生物以上に深刻な問題を引き起こすことはない、と言う事実だ。
 アブラコウモリは夜に蛾や蚊を食べている。それが生息しているということは、周囲に「植物→昆虫→コウモリ」といった生態系(食物連鎖)が保全されている証拠である。コウモリは、人間が安心して住める環境がそこにあることを示してくれる指標動物なのだ。

山本輝正  高校教諭・コウモリの会会長


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