イベント報告

第一回iBatsワークショップ 2010年7月31日〜8月1日

講師のケイト・ジョーンズさんがフェイスブックのiBatsグループに載せたエッセイを、ご本人の承諾を得て日本語訳を載せました。

お寿司と温泉 iBats Japan     ケイトジョーンズ


 車酔いで少々気分が悪くなって、富士山麓の狭い山道を走る車の窓から、遙かな崖下の小さな茶畑と田んぼを、じっと見つめた。大きなトラックをやり過ごすために、われわれの車は苦労していた。緑の濃い周囲の山と青い空と紺色の湖がきれいだった。

 iBatsの関係で、ここ数ヶ月、名前しか知らなかった場所に出かけ、新しい人と出会って怒濤のような日々だった。11時間のフライトでトイレの順番待ちをしているときに、「日本で何をするのですか?」と日本人の客室乗務員が丁寧に訊ねた。 「日本各地の地元の人やコウモリ研究者と、コウモリの個体群を調査するプログ
ラムを立ち上げようとしているの。」と答えた。「心臓を調べて健康をチェックするように、コウモリの個体群を調べて自然の健康度や人間の活動の影響を調べることができるのよ。」「コウモリ?」彼女の声がうわずった。「コウモリ大好きです。」といって、おもむろに日本地図に、私が日本でコウモリを見に行くべきところに
+をつけたものを書き始めた。

 もう一つ予想外のできごとは、最初の夜のディナーで、このプログラムの主催者の福井大さんが連れて行ってくれたウナギの蒲焼きがおいしかったことだ。特にごまドレッシングで食べた天ぷらが。

 車で隣に座っていたスチュアート・パーソンズは私よりもっと青ざめた顔をしていた。大さんの山道ドライブの前夜にお酒というのは、まずかったらしい。一方デビッド・ヒルはわれわれよりも元気で、後ろの席のわれわれに日本の文化を説明したり、前の席の大さんと日本語で話していた。

 昨日の昼間は日本のコウモリグループ「コウモリの会」のメンバーと山の洞窟をまわり、キクガシラコウモリが頭上でとりとめなく鳴きながら飛び回るのを聞いた。

 夜は、霞網をかけながらバーベキューをするという、まったく新しいフィールドワークをした。辛い仕事は現地の専門家に任せ、われわれは何人かの学生が霞網で採れたコウモリを見せにくるあいだ、座っておしゃべりして過ごした。デビッドの大好きな、日本固有種のコテングコウモリが特にかわいかった。大さんはコテングコウモリが雪の中で冬眠しているのを見つけたことがあると話してくれた。われわれは酒を飲みながら、どうやってこのコウモリは零下の気温に耐えることができるのかいろいろ話した。

 私はモニタリングの大切さをコウモリの会のメンバーに説明し、iBatsの音声装置の使い方を説明した。スチュワートは彼の新品のiPadで、われわれの頭上をひらひら飛ぶコウモリの声をリアルタイムで見せた。私はこの道具を鼻で笑って見せながら、スチュワートが私をだしぬいたことに密かに感心していた。

 日本ではコウモリは保護されているけど、今まで個体群の正式なモニタリングはなされていたかったし、コウモリの生態系での役割については一般には浸透していなかった。コウモリの会はコウモリについての知識を一般に広めようと活動して、特に毎年8月に行われるコウモリフェスティバルには力をいれてきた。

 車が小さな軍団となって山を下りるときに前の車にBCTのステッカーが見えた。その前に長島ダムを見下ろす場所で昼食を取った時に、車のオーナーの大沢啓子さんに「会員なの?」と聞いてみた。「はい」と彼女の夫の夕志さんが身振りで示した。「Bat Newsを読んでますよ。」夕志さんは写真家で、彼ら二人はオオコウモリの写真を撮って、年中世界を旅しているようだった。

 「ケイトさん」コウモリの会事務局の三笠暁子さんが「BCTはどのくらい会員がいるのですか」と丁寧に訊ねた。私が5000人以上と答えたらびっくりして、コウモリの会は会員500人をめざしているがなかなか厳しという。コウモリの会は来年iBatsのプロジェクトを発展させて、各種の特徴をまとめて、初の全国的なモニタリングをやりたいという。私とスチュワートはその立ち上げを手伝うためにここに来て、iBatsのモニタリングやボランティアの管理、音声解析のワークショップをやっているのだ。

 車で隣に座っているスチュワートは少し気分がよくなったようだ。わたしに当てつけるために新しいiPadの画像をチェックし始めた。われわれは次の夏(北半球の冬)の彼のニュージーランドでのiBatsプロジェクトについて話した。日本には40種のコウモリがいるのとは対照的に、ニュージーランドには2種類のコウモリしかいない。スチュワートは私の否定的ないい方に反発して、ニュージーランドにはコウモリの種数は少ないけど、その非常に特異的な2種だという。確かにニュージーランドは、シダに覆われた森の林床を這ってフルーツや虫を食べるツギホコウモリMystacina tuberculataの生息地だ。iBatsは車からコウモリの音声モニタリングをするので深い森に棲むツギホコウモリには向いてないけれど、スチュワートは、もう1種のミゾクチコウモリChalinolobus tuberculatusの調査にiBatsが利用できるのではないかと考えている。

 iPhoneにバットディテクターを接続して記録とGPSデータを直接iBatsのサイトに送ることができるiPhoneのための新しいアプリケーションを、スチュワートが使ってみたいというので、我々は今年2月に、ニュージーランド南島のフィヨルドランドで試してみて、サンドフライと蚊にいやというほど刺されたけど、有効であることを確かめていた。ミゾクチコウモリは楽しげに、ロードオブ・ザ・リングの国でトランセクト中のわれわれの車の上を飛んだ。
スチュアートはiBats方式で、絶滅危機にある固有種ミゾクチコウモリを調べるのに乗り気だった。

 われわれはすてきな日本女性のカーナビの声に導かれて、雲におおわれた道に戻り、ワークショップの会場でもある、今夜の宿に向かった。ワークショップの会場は高原のロッジで、引き戸の押し入れにきちんとたたまれてしまわれた布団を、毎晩出して出して敷く、和風の部屋に泊まった。特に近くの温泉からお湯を引いている日本式の浴槽が面白かった。
 
 この何ヶ月かハンガリー、ウクライナ、ロシアとiBatsのワークショップが続いて大変だったが、各地での歓迎と熱意には感激した。世界各地であった人々の親切とわれわれよりもっと困難な状況にあるコウモリの保護にかける熱意には圧倒された。ロシアではウォッカをちょっと飲み過ぎたけど。

 日本で初めて建ったというコウモリ小屋に立ち寄った時に、コウモリの会の一人が私に、次のiBatsプロジェクトはどこの国かと聞いた。オーストラリアなんてどうでしょう!